第12章 帰還と安穏
「それは願ったり叶ったりだ。静代殿もそのつもりだろうから、よくよく話すといい」
「はい」
重ねていた手は、敷布団に縫われるようにそっと置かれ、あなたの作る影と髪を撫でる手に包まれる。
瞳の奥を覗くように顔を近づけて、無邪気に問いかけた。
「俺のこと、好き?」
「はい」
躊躇する理由もない。
ただ、真っすぐに見て伝えたい。
あの日、花畑であなたに伝えたように
向けられる眼差しは暖かさを増して
純粋無垢な悦びと、わたしへの愛を感じた。
「どれくらい?」
甘さを含んだ声。
最後の質問は、わたしの覚悟を問われるもの。
あなたの頬に触れながら、
覚悟と思いのたけを言葉にする。
「命の権限を委ねていいくらい」
虹色の瞳が、大きく見開かれた。
彼にとって予想を超えたものだったのか
甘美さを増した眼差しは、悦びで溢れている。
「俺が君に対してだけできないことを言うね……」
そういえば、最後にわたしを抱いた時、
あなたはわたしにそう言って涙を流してくれていたっけ…
深く低い声が甘さを増して、満足気に微笑んだ。
「でも、上等だよ……」
溢れ出る愛を隠すことなく
ゆっくりと額を合わせる。
「菖蒲ちゃん」
「愛してる」
久しぶりの柔らかい唇の感触に胸が震える。
それは、まるで魂を愛でるような、
静かで
甘美で
時を感じさせないほど
逢えなかった時の心の穴や時間を埋め合うモノだった。