第12章 帰還と安穏
翌日、日が高い内に、わたしは童磨さんの自室へと移された。
最後に来たあの時と何も変わらない。
日が差さない代わりの華美な内装。ただ、常に暖かな火が焚かれており、ふかふかの布団が敷かれていて、わたしを迎えるためにこの部屋に似つかわしくないものがいくつか置かれていた。
松乃さんによって布団に寝かされる布団は、嗅ぎなれたお香の薫りで、不覚にも懐かしさから、目頭が熱くなり目を閉じた。
部屋を去る音と、静かに絞まる襖の音。
それとは入れ違いで、反対の襖が開かれる。
わたしが横になる布団の真横で足をする音が止まり、静かに腰を下ろす彼はどこか喜々とした様子。
大きな手の影は、やがて柔らかく肌に触れて目尻をなぞった。
「菖蒲ちゃん。調子はどうだい?」
目を開けると、仮面ではない少し細められた虹色。
松乃さんの言葉が頭をよぎる。
もう、酷い自己嫌悪も罪悪感も残っていない。
「先ほどまで、風に当たっていたので、少しいいと思います」
「それはよかった…。 よいしょっと」
嬉しそうに笑みを浮かべたまま、わたしの横に転んで頬杖をつきながら、もう一つの手はわたしの頬を撫でようと手を伸ばす。
暖かくも冷たくもない、ただ優しく頬を触れる手に自分の手を重ねて目を閉じた。
「菖蒲のことを、今まで華だと思っていたけれど、蝶やもしれないな…。虫かごのような狭い世界で飼えばたちまち、その輝きは弱ってしまいそうだ…」
ゆっくりと頬を撫でる指先
どこか寂しさを含んだようにあなたは言う。
半分はそのとおり。
わたしは狭い場所に留まって飼われることは満足はできない。
だけど…
「…童磨さん」
「なんだい?」
「ワガママを言ってもいいですか?」
「ぜひ、聞かせてもらいたいね」
今まで、胸の中で押し殺していた願い。
願ってはいけないと思って口にする事を避けてきたこと
今ならば、みんなが作り出した今がここにあるならば
言っていいと思った。
「今までのように、舞踊も続けていきたいのです。そして、もし許されるなら、舞踊も続けながら、もっと、あなたのお傍にいたいと思っています…」
一瞬驚いた表情のあと、歓喜に花を咲かせて瞳を震わせる。