第12章 帰還と安穏
丑の刻
童磨が華雅邸襲撃直後、
童磨は真っすぐに寺院に戻ってきていた。
真夜中にも関わらず、寺院の門の前はどこか騒がしかった。
菖蒲を案じる教団の幹部や信者が、門番から実田が菖蒲の件で来たことを聞きつけ、「教祖様が自らお迎えに上がられた」と噂でもちきりになっており、その帰還を待ちわびていたのだ。
門をくぐると夜の闇の中で待機していた信者たちが、童磨の姿を捉える。
「童磨様!おかえりなさいませ!」
「教祖様!菖蒲様は?」
風を切るように歩き進める童磨の虹色の瞳に、出迎える信徒の声も顔も一切映らない。
いつもと違う教祖を目の前に、騒ぐ声はすぅっと静まり返った。
いつもと違う教祖の、異様な焦燥と、身体から溢れる尋常ならざる冷気を目の当たりにし、騒ぐ信徒の声はすぅっと静まり返った。誰も彼を遮る勇気は持てなかった。
童磨は、幹部の一人を呼び止める。
「松乃と菖蒲は?」
「松乃様は寺院を出られてから帰ってきてはおりません。
ですが、唐津山様が言伝を童磨様へと賜っておるそうで…。
唐津山は今本殿で教祖様のお帰りを待っておられます」
その言葉を聞くと、一切教徒の者を見ることなく、奥の通路へと足早に本堂の方へと足を進める。
彼の関心は、もはや屋敷の破壊でも、信者の歓呼でもない。ただ、松乃、唐津山からの菖蒲に関する報告の一点のみ。
本殿へとたどり着くと、そこには唐津山が童磨が入室する頃合いを見計らっていたのか行儀よく指を揃え付き、首を垂れていた。
「松乃様から教祖様へと言伝を賜っております」
「教えて」
「菖蒲様は無事救出することができ、計画していた作戦は何一つ滞りなく完了したとのことです」
「菖蒲の容態は?」
唐津山は、松乃の報告通りに童磨に伝える。
「衰弱が激しいとのことであります。重度の肺炎、栄養失調、体温低下。医師からは、持ち直すかどうかは五分五分だと……。鶴之丞の今回の仕打ちで、菖蒲様のお命の炎は、小さく消えそうなほどだと報告がありました。
現在松乃は例のお堂にて菖蒲様の傍についてございます」
唐津山から松乃の報告を聞いた童磨は、ピクリとも動かなかった。