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極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第11章 浄土と氷獄



松乃の告白は、静代が抱いていた疑惑を確信へと変えた。

先々代の事件の裏には、華雅家の血筋を守ろうとした、松乃の主の意志と、それに失敗し、人外の力に救われた松乃の悲劇があったのだ。

童磨の「菖蒲への異様な執着」の根底には、松乃の境遇と、菖蒲の自己犠牲の姿が重なっていたのかもしれない。

「あなたと菖蒲は、家元に嫁ぐ前から、互いに知っていたのですね」

静代の問いに、松乃は静かに微笑んだ。

「はい。菖蒲様は、私のことを『松乃さん』と呼び、とても慕ってくださいました。そして、童磨様からも菖蒲様からも、お互いが想い合う様子について、一番近くで見てきましたし、その思いのたけをよく聞いてきたのです。

菖蒲様にとって最善を尽くすと、わたしの方からも、彼女に更なる地獄をみせないことをここでお誓申し上げます」

松乃は、静代の事を師としての顔ではなく、愛弟子を想う一人の女性として、真正面から誓いを立てた。

「菖蒲様が、流派のために、ご自身の道ではない場所へ嫁ぐと決めた時、私は……その決意にただ、泣くことしかできませんでした。菖蒲様が真っすぐ志を貫かれることを童磨様もよくご存じだったため、強くお引き留めになることが出来なかったんだと思っております」

静代の目から、再び涙が溢れた。その涙は、菖蒲の孤独な決意と、それを知っていながら「流派の師範」という立場から何もできなかった自分への自責の念だった。

「わたくしは、あなた様を、そして菖蒲様を、心から尊敬しております。だからこそ、今、この二代にわたる因果を、私の手で断ち切らなければならない」

松乃は、静代の前に身を乗り出した。その瞳は、穏やかでありながら、絶対に揺るがない、元忍としての強固な決意に満ちていた。

「静代様、実田様。私たちには、一刻の猶予もありません。童磨様が動かれる前に、まず菖蒲様の命を安全な場所へ移す必要があります。私たちは、命をかけて、あなた方の愛弟子を、鶴之丞の元から連れ出します」

その松乃の瞳は、穏やかでありながら、絶対に揺るがない決意に満ちていた。静代は、松乃の手を強く握り返し、深く頷いた。

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