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極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第10章 凍土の胎動



実田は鶴之丞の屋敷から、まっすぐ人力車を飛ばさせた。向かう先は、菖蒲の師であり、彼自身も長年の取引がある静代師範の屋敷だった。

「静代殿、ご無沙汰いたしております」
「まぁ!実田様ではございませんか!
どうぞどうぞ、お上がりくださいな」

静代は、菖蒲が嫁ぐ前以来の実田の訪問を心から歓迎した。
要件は応対した門下生から聞いており、菖蒲の件について相談したいとのこと。

しかし、実田の話を聞くにつれ、その顔色を青ざめさせていった。

「蔵での療養……?!それは…家元がそこまで非道なことを…?」

「おふみさんが仰ってたので間違いないかと…。
静代殿は何か気付いたり気になっていたことは?」

「あの子は、あの日から一度も稽古場に来ていないのです。家元からは、『体調不良が長引いている』と追い返されていて少し気になっていたんですが……」

静代は付き人としていつも仕事先について行っていた梅子にも、お使いだと向かわせたが門前払いだったようで、中の様子が解らず心配で仕方なかったのだ。

「あの子は、…菖蒲は大丈夫なの?」

実田は重く首を横に振った。

「静代殿。あの様子では、菖蒲さんは病だけでなく、命の危機に瀕しています。あそこは、療養どころか、冷たい土蔵です。今は季節柄寒い日が続く。一刻も早くあの子をなんとか助け出さなければ、手遅れになります」

実田の訴えに、静代は深く頷いた。彼女はすぐに立ち上がると、流派の維持という理性の枷を外した。

「実田様。わたしはもう、あの子を家元の犠牲に捨て置くことはできません。なんとしても鶴之丞と対峙して、あの子を連れ戻したい…」

「それはわたしも同じだ思いだ。幾分か鶴之丞殿の悪い噂は聞いてはいたが、前まではしっかりと理性があった。しかし、近頃に聞く評判や、先ほど直接お会いしたところ、それももうない。あの家元では静代殿と菖蒲さんが大事に守ってきた流派が汚されてしまうと、部外者ではあるが思っているんだ」

実田が、ずっと鶴之丞や彼女たちが守る流派について内に秘めて思っていたことを吐露した。

静代も、最近感じる違和感に名をつけられたような感覚にある種の覚悟が生まれた。

「ですが、正面からでは流派が本当に潰れてしまいます……実田様、あなたの人脈の伝手で何とかなりませんでしょうか…」
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