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極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第9章 花散し




声は出ない。
恐怖と屈辱で喉が張り付き、体の動かし方どころか、呼吸の仕方すら忘れたかのように浅い。
痛みは、やがて遠いものとなり、自分の体が他者の狂気に晒されているという事実が、脳の深部を鈍く麻痺させていった。


_____ああ........
________何もかも、汚れて消えてしまう…



涙は、熱を持たず、ただ冷たい雫となって頬を伝った。
それは、鶴之丞の狂気から身を護ろうと必死に内側に閉じこもった、魂の残滓のようだった。







男の行為が終わり、力が抜けると、鶴之丞は嘔吐でもするかのようにその場から立ち上がった。

狂乱と自己嫌悪、
そして鬼への恐怖

鶴之丞は放心し涙を流す菖蒲を一瞥もしない。

まるで汚らわしいものに触れたかのように、荒々しい足音を立てて部屋を出て行った。

床に残されたのは、血を吐いて散った牡丹のような白絹の残骸と、全身を強張らせたまま、魂が抜けたように動かない菖蒲の躯だけ。








静かに夜へ向かうとさらに吹雪き始める。

寒さも何も感じない…。













先に正気に戻った使用人が泣きながら菖蒲を抱きしめて擦る。

その体温に気づいた菖蒲は記憶の断片を探り無理に重ねた。



そうでもしなければ、自害して全て投げ出して逃げてしまう事と同義であると、下唇に血がにじむほどにかみしめたのだった。


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