第38章 春を待つ
「お前は隙をみせすぎだ」
「……ごめんなさい」
「気をつけろ」
「うん」
琴音は少し申し訳無さそうにした。
年始に義勇と琴音は婚約をし、春を待って籍を入れることにした。
だから、琴音は今までよりもしっかりと男性と距離を取らねばならない。
「もう出られるか」
「大丈夫」
「よし」
二人は隊服を着ていた。
もう戦うことはないのだが、帰宅しないと私服がないからだ。
アオイたちに挨拶をする。
善逸や伊之助、禰豆子にも声をかけた。
「琴音ちゃん、帰っちゃうのぉー??寂しいなぁ……」
「炭治郎くんの治療もあるし、またすぐ来るよ?」
「でも、お嫁に行っちゃうし……ぐすん…」
「お嫁はすぐじゃないけどね」
「琴音!半々羽織とケッコンするんだってな!」
「そうよ。桜が咲いたらね」
「めでてーな!!」
「ありがと、伊之助くん」
「琴音さん。お兄ちゃんの治療ありがとうございました」
「禰豆子ちゃん。また診に来るよ。毎日の声掛けをしっかりね。それに勝る『お兄ちゃん』への薬はないんだから」
「はい」
義勇と琴音は皆に見送られながら蝶屋敷を後にした。
家までの道を二人で並んで歩く。
義勇の左手には荷物があるので、手を繋ぐことは出来ない。
これから、こういうことが増えるだろう。
今まで通りにはいかない。
それでも二人の間には笑顔がある。
絆がある。
愛がある。
幸せの空気を纏って、ゆっくりと歩いた。
門を潜り、久方振りに帰宅をした。
義勇が先に入り、琴音も続いて家に入る。
「只今戻りました」
この言葉が心に染みる。
「おかえり、琴音」
荷物を下ろした義勇が嬉しそうに笑い、琴音を抱き寄せた。
彼が抱きしめられない代わりに、琴音が義勇の身体をしっかりと両手で抱きしめた。
「幸せになろう。ここで、二人で」
「はい」
目が合うと、どちらからともなく唇を寄せる。