第38章 春を待つ
義勇の温もりで、段々と眠くなってくる琴音。
「眠いか」
「ん……やばい」
「無理はしなくていい」
「うん……でも、年明ける時には起きてたいなぁ。あとちょっとだし」
義勇は握っていた琴音の手を離して、ごそごそと彼女の首元へ手を回した。
「え、ちょっと、なに?」
「寝ないように」
「え?」
義勇は琴音の頭を固定して、唇を寄せた。
反射的に目をきゅっと閉じる琴音。
少し俯いてしまった彼女の顔をすくい上げるように下から唇を合わせる義勇。
優しくて甘い口付け。
ひとしきり唇を堪能すると、口を離す義勇。
琴音は顔を赤くして義勇をちらりと見た。
「いきなりすぎるでしょ……」
「目が覚めただろう」
「……まぁね」
「年が明けるまで、続けてもいいが」
「唇腫れちゃうよ」
「そんなにしたら、俺は我慢できなくなる」
「いや、そこは頑張って我慢してください。しばらくは安静です」
ふふと笑う琴音の肩に義勇が手を回し、ぐっと自分の胸へと抱き寄せた。
「俺は……」
義勇が何かを言いかけて、言葉を止めた。
琴音は首を傾げる。
「……ん?」
「……………」
「なあに?」
「……俺は、長くてあと四年だ」
「…………」
「隻腕なこともあって、お前に迷惑をかける」
「…………」
「この先、どうしたらいいか、わからない。どうしてやるのがお前の幸せになるのか」
琴音は義勇をじっと見上げた。
彼は悔しそうに眉を寄せて、正面に目を向けていた。悩んでいたのだろう。
「……あのね。あまね様はね。迷わずお館様に付いていったの。戦いの前にお話したんだけどね、その決意になんのゆらぎもなかったよ」
「……そうか」
「私も、冨岡に付いていくよ。あなたが死んだら、一緒に逝く」
「それは駄目だ!!」
義勇が琴音にバッと目を向ける。
「俺の死をお前の死にするのは許さない」
「許さないと言っても、冨岡はもう死んでるから止められないもんね。残念でした」
「……おい」
「あなたの居ない人生に意味はない」
「駄目だ。絶対に駄目だ」
義勇は怒ったように呟く。琴音は澄ました顔をしている。