第28章 女の子だって
「体、辛いのか」
「まあ…ね」
「そうか」
琴音は目を閉じたまま答えた。会話が途切れる。いつも彼女が自分たちの会話を回してくれていたのだと義勇は思った。
義勇は言葉の代わりに、琴音を優しく撫でた。
弱っている彼女。昨日やその前はもっともっと酷かったのだろう。彼女の目が閉じられていることをいいことに、義勇は眉をぐっと寄せた。
「戦いの前にね……」
琴音が小さく呟いた。宝石のような彼女の目は閉じられたままだ。
「行きたいところが、あるの」
「どこだ」
「家族のお墓参り」
「わかった」
「蔦子さんのお墓も、ね」
「ああ。一緒に行こう」
義勇は優しい声で呼びかける。
「お前が歩けなかったら、俺がおぶってやる」
「……うん」
「やりたいこと、行きたい所、なんでも言え。俺が、全部やってやる」
「あはは…優しいねぇ……」
「俺がしたいだけだ」
「あり…がと……」
「だから、早く元気になれ。……頼む」
墓参り。琴音の小さな望みを聞いて、義勇は何故だか泣きそうになるが、涙をぐっとこらえる。流石に無表情ではいられないが、涙を零すことなく琴音を見つめた。
「うん……すぐに、元気になる。任せて……。冨岡がいれば、私はちゃんと……戦えるの……」
うわ言のように呟く琴音。
「負けない……。私は、冨岡には……負けないから」
「だから何故、俺と戦うんだお前は」
「負けたく……ないの……」
まだ寝たくない
もっと喋りたい
ちゃんと顔を見たい
笑顔を見せたい
そう思っているのに、身体が言うことを聞かない。そのままふわりと意識を手放した琴音。
「……鬼殺隊の女子は、強いな」
琴音を見つめて義勇が声をかけた。
「頑張れ」
額に一つ、口付けを落とした。