第17章 同じ時を※
「ところで」
「ん?なに?」
「お前はいつまで冨岡と呼ぶんだ」
「………あ」
忘れてた、という顔をする琴音。
「ずっと冨岡って呼んでたから、つい」
「…………」
「ごめんごめん」
「………別に」
「拗ねないでよ」
「拗ねてない」
義勇は琴音の手を引き、己の腕に抱きしめた。
「拗ねてない……が、ちゃんと呼んでほしい。名前で」
「……義勇さん」
「もっと」
「義勇さん」
「もっと」
「どうしたの?不安になっちゃった?」
「……呼んでほしいだけだ」
琴音は義勇の背中に手を回し、琴音からも彼をぎゅっと抱きしめた。二人の体が密着する。
「大好きよ、……義勇」
琴音は目を閉じながら穏やかに彼の名を呼んだが、義勇は逆に目を見開いた。弾かれたように義勇は体を離し、琴音の唇を塞いだ。激しく口を吸う。
「……んんっ、!」
琴音は驚いて咄嗟に身を引こうとするが、義勇が後頭部と腰を掴んでいるので離れられない。彼女の戸惑いを解りつつ、義勇は口付けを続けた。
酸素を求めて開かれた琴音の口へ、義勇の舌が侵入し始める。
「え、……や、ちょっ……んんっ」
義勇が口を離してくれないので、琴音はどうすることも出来ず、されるがままだ。
ぴちゃぴちゃと音を立てて義勇の舌が動き回り、琴音の舌を絡め取る。互いの舌が絡りあい、深い口付けは続く。次第に琴音も初めて味わうその痺れるような感覚に、思考を溶かされていった。
唾液が琴音の顎を伝い始めた頃、ようやく唇が離され、力の抜けてしまった琴音はくたりと義勇にもたれかかる。
「すまない、理性がとびかけた」
「……はぁ、はぁ…、」
「嫌じゃなかったか」
「嫌じゃ、ないよ……、でも、びっくりしちゃった」
「悪い」
義勇は興奮を抑えようとしながら、息荒く自分に寄りかかる琴音の背にそっと手を添えた。