第20章 10月31日 渋谷にて
まだ血が止まらないなずなはジリジリと後退りして、少しでも傷を治す時間を作るが、同時に焦りは更に増す。
こんなところで戦ってる暇はない。
早く伏黒くんのところへ行かないと……!
でもこの人を放っておいたら、また補助監督の人達を殺し始める?
それに、もし逃げた私を追いかけてきたら、伏黒くんのところに引き連れていっちゃうことにもなる。
どうする?
ここで戦ってから行ったとして間に合う?
伏黒くんを連れ去ったあの人は陀艮をあっという間に祓った。
伏黒くんは領域展開直後で疲労困憊、多分、陀艮より早く殺されてしまう。
それにそもそも、私はこの呪詛師に勝てるの?
不安と焦燥から次々と浮かぶ疑問と最悪の状況。
だが、何よりこんなことを考える時間すら惜しい。
……迷ってる暇はない!!
だいぶ血が止まってきた首から手を離し、両手で鬼切を握り、相手の体格、動き方をよく観察する。
……あの呪詛師は多分そんなに強くない。
厄介なのは勝手に動く呪具。
動いているのは手の部分だから、あの手を切り落としてしまえばなんとかなる……と思う。
一番の懸念は相手が人間だということ。
正直、鬼切を人に向けることには抵抗がある。まだ克服できたわけではないのだ。
特訓の時は五条先生だったから向けられた。
当然ながら、今回の相手は無下限呪術なんて使えない。
鬼切を向けるだけでこんな風なのだ。
切りつけるとなったら、絶対に迷う。
でも迷えば、こちらの大きな隙になる。
殺さない程度に足を傷つければ追ってこれないかな……