第20章 10月31日 渋谷にて
口を固く引き結んだ七海は無言で真っ直ぐこちらに歩いてくる。
「いやいや、状況見てよ。何勝手に動いてんの?女の子が人質……」
再び剣を突き出すが、思った手応えはない。
「アレ?……あっ」
新田はなんとか自力で這ってエスカレーターに乗り、上の階へ逃れていた。
「逃げちゃった」
残念そうに呟く重面のすぐ後ろには既に七海がおり、冷めた声で問いただした。
「仲間の数と配置は?」
「知らない」
その声が静かな怒りを孕んでいるのにも気づかず、重面は七海の右肩を剣で切りつけ、更に蹴りを入れる。
が、
え……?
ビクともしない。
人間を蹴った気がしない。
っていうか、斬れてない!
岩壁を蹴ったような感覚に驚愕する重面の足首を掴み、七海は淡々と続ける。
「仲間の数と配置は?」
「知らな……」
答える前に七海の十劃呪法が炸裂し、殴られた重面は錐揉み回転して壁に激突した。
頭から血を流し、吐血した重面はふらつきながらなんとか立ち上がる。
死んでいた!
俺の術式が無ければ死んでいた!!
逃げ……!
だが、重面の頭は既に七海に掴まれている。
「仲間の数と配置は?」
「だから知ら……」
またも答えを言い終わらぬ内に重面の鳩尾に強烈な打撃が入る。
重面の呪具が七海の方へ向かうが、すかさず野薔薇が釘を飛ばし壁に縫いつけた。
「させねぇよ!」
「空気読めよぉ!!ん゛ぇ!?」
七海が静かな怒りを湛えて重面の首を掴み、右の拳を握り込む。
「ここに来るまで、何人もの補助監督が殺されていました。あなたですね?」
七海の殺気に周囲の空気が一段と冷えたのを感じる。
殺気を差し向けられた重面は一切動けなかった。
「……ご、ごめんなさ」
七海はそんな謝罪を聞き届けるつもりはない。
次の瞬間、七海の拳は重面ごと壁を貫き、重面は道路を挟んで向かいのビルにめり込んで動かなくなっていた。