第20章 10月31日 渋谷にて
「伊地知さんが?」
大刀で改造人間を切り伏せながら話を聞いた真希が怪訝そうに聞き返した。
駆け寄ってきたなずなは青い顔をしている。
「新田ちゃんと通話中に襲われたっぽくて!多分伏黒達と分かれた後だから、今1人でヤバいかも」
「そ、それは殺されちゃったかもってこと……?」
「なずな、縁起でもないこと言うんじゃないわよ!……でも最悪そうなるわね」
「……野薔薇は明さんと伊地知さんの所へ。携帯が使えねぇんだ、補助監督がいないと話になんねぇ」
待機命令から約1時間、なぜ改造人間が動き始めたのか未だに謎だというのに、帳の外には呪詛師がいるときた。
次々と噴出する不可解な状況に、真希は漠然と嫌な予感がしていた。
悟が負けることはまずないが、状況がどんどんキナ臭くなってる。
「私はなずなとここを片付ける」
ちなみに査定評価のために共に来ている直毘人はここに突入してすぐに戦力から外した。
「あのジジィはやる気なさすぎるからな」
真希の視線の先にはベンチに寝そべって欠伸する直毘人。その足元にはビールの空き缶が転がっている。
「おい酒」
しかも飲み足りないのか、追加まで要求してくる始末。
「あの、お酒はもう無いんです……」
「無視しろ」
律儀に返答しているなずなをたしなめつつ、真希は思考を巡らせる。
屋外……帳の外の方がいざという時逃げ様があるよな。
できることならなずなも外に出しておきたいが、そうすると野薔薇が残ろうとするし、なずなは明さんと一緒に戻ってこないとどっかで迷子になるだろうし。
難しい表情の真希に野薔薇も新田も疑問符を浮かべたが、一刻を争う状況なので、素直に指示に従って渋谷マークシティを出た。