第20章 10月31日 渋谷にて
その頃、Cタワー屋上―
オガミ婆と禪院 甚爾の肉体を降ろした孫も帳が解かれたことを視認していた。
「帳、上がっちゃったね。どうする、婆ちゃん?」
そう尋ねた直後、痙攣を起こしたかのように不自然に孫の口が震えたが、オガミ婆は気にも留めない。
「どっどっどどど、どうする?」
「五条悟はおらんに越したことはない。オマエは下に降りて術師を殺せ」
しかし、孫は答えなかった。
不審に思ってそちらを見るが、特に変わったところはない……
「……孫?」
「ババァ、誰に命令してんだよ?」
「!?」
振り向いた男にそれまでの孫の気配は全くなくなっていた。
オガミ婆を鋭く睨みつける。
そのひと睨みで全身に寒気が走ったオガミ婆は咄嗟に距離を取った。
「どういうことだ……儂はまだ“肉体の情報”しか降ろしておらん!」
「降ろす……?ああ、そういう……」
そう、こういう不測の事態を未然に防ぐため、“魂の情報”は降ろさんと決めている!
だというのに!
孫だった者は顎に手を当てて薄ら笑った。
「よく分かんねぇけど、俺の肉体は特別だからな。コイツの魂が俺の肉体に勝てなかったんだろ」
魂が肉体に負ける!?
それでは目の前の者は孫ではなく、禪院 甚爾そのもの……!
「そんな……あり得ん!」
「術師は殺せ、か……」
立ちすくむオガミ婆に甚爾が容赦の欠片もなく牙を剥く。
「テメェも術師だろ」
「まっ……」
言う間もなく、鈍い打撃音と共に血の海が広がった。