第20章 10月31日 渋谷にて
22:04 首都高速3号渋谷線 Cタワー前
粟坂が持っていた帳の基2本を破壊すると、虎杖が殴っても壊れなかった帳が上がった。
しかし、一般人を閉じ込める帳は残存している。
「あれっ!?今上がったのって、術師を入れない帳だけだよな?猪野さんと合わせて3つ壊したのに」
「3つで1枚の帳を降ろしてたか、2つはダミーだったんだろ。けど、これで残りは一般人を閉じ込める帳と五条先生を閉じ込める帳、俺達は関係なく自由に動ける」
とりあえず第一目標だった術師を入れない帳は解除できた。
できることなら、敵の情報も聞き出しておきたかったが……
伏黒は気を失っている粟坂を見やる。
「このジジィに色々聞きたかったが、起きそうにねぇし、猪野さんと合流して……」
ふと伏黒の視線がタワーの方で止まった。
「猪野さん!?」
「?」
粟坂の様子を確認していた虎杖も伏黒の声につられてそちらを見る。
タワーから落ちてきている黒い影……猪野だ。
伏黒がすぐに鵺を呼び、翼をクッションにして落下の衝撃を弱め、虎杖が受け止める。
「……っ!?」
その顔はグズグズに崩れて血塗れだった。
何をされたらこんな……
虎杖が息を呑む中、伏黒の鋭い声が飛んでくる。
「猪野さんは!?」
「大丈夫……じゃねぇけど、死んじゃいない」
気を失っている猪野を鵺の背に預け、虎杖がタワーの屋上を見上げた。
「……ちょっと殴ってくる」
「虎杖、気持ちは分かるが抑えろ!俺達の最優先事項は?」
「……五条先生」
「帳は上がった。上の連中はもう逃げた後かもしれねぇだろ。猪野さんを連れて一度外に出るぞ」
伏黒の意見は最もだが、すぐ割り切れるものではない。
虎杖はフーッと深呼吸して昂る怒りを懸命に抑える。
「猪野さんを頼む。俺は先に駅に向かう」
虎杖の言葉に伏黒は口を引き結んだ。
そうだ、それがベスト。
だが今この渋谷で単独行動は……
「……分かった、でも」
「『死んだら殺す』だろ?心配すんなって、メカ丸もついてるし!」
そう言ったものの、メカ丸は少し前から全く反応しなくなっており、そこが少々懸念ではあるが……
一方、伏黒は少しムッとしてから、鵺と共に立ち上がった。
「分かってるならいい。後でな」
「おう!」