第20章 10月31日 渋谷にて
夏油はそれを見送ると、立ったまま気絶している非術師の方に目を向ける。
「呪霊の方が君達より利口だな」
「返せ」
気を失った人々の間にセーラー服の少女が2人。
彼女達は憎々しけに夏油を見つめている。
「私達はオマエに協力し、猿共を落とし続けた。約束通り夏油様の肉体を返せ。夏油様をこれ以上玩ぶな」
そんな視線をものともせず、夏油は笑ってコンコンと額を軽く叩く。
「返すわけがないだろう。君達の頭まで空っぽにした覚えはないんだがね。次、術師と約束をする時は“縛り”であることを明確にするんだな」
そして一変して凍てつくような視線で2人を睨めつける。
「消えろ。それともこの肉体に殺してほしいか?」
しかし、殺気を孕んだ低い声にも2人の少女は動じなかった。
目の前の醜悪なモノへの怒りと憎しみの方が圧倒的に勝っていたからだ。
彼女達の名前は美々子と奈々子。
かつて夏油に心と命を救われた双子。
自分達をあの座敷牢から、訳の分からない言いがかりをつけて殴ってきた怖い大人達から救い出してくれた恩人の肉体を乗っ取るモノを2人は決して許さない。
「……後悔するぞ」
そう恨み言を残し、B5Fから去っていった。
「……後悔か」
夏油はそう零して獄門疆の前に座り込んだ。
「さて、どんな味だったかな」