第20章 10月31日 渋谷にて
おやすみ、か……
確かにこの状況じゃ自分は何もできない。
だが……
「……オマエはそろそろ起きろよ」
五条の声に夏油の右腕がピクリと反応した。
「いつまでいい様にされてんだ、傑」
そして肉体を乗っ取っているモノの意思に反して自身の首へ掴みかかり、喉笛を絞め始める。
「あっはっは、凄いな、こんなの初めてだよ」
元は死体だったはずの肉体側に反抗されるなんて新発見だ。
少しすると、目を覚ました真人がこちらに来た。
「夏油〜」
「真人、見てくれ。君は魂は肉体の先にあると述べたが、やはり肉体は魂であり、魂は肉体だよ」
抵抗してくる右腕を左手で押さえ込むが、油断すればまた首を絞められそうだ。
「でなければ、この現象にも入れ替え後の私の脳に肉体の記憶が流れてくるのにも説明がつかない」
「それって一貫してないといけないこと?俺と夏油の術式では世界が違うんじゃない?」
「術式は世界か……いいね、素敵だ」
そう言って笑うと、真人が不思議そうに腰に手を当てていた。
そんな様子を五条は見ているだけ、不快なことこの上ない。
「おーい、やるならさっさとしてくれ、ムサ苦しい上に眺めも悪い」
「こちらとしてはもう少し眺めていたいが、そうだね、何かあっても嫌だし」
「閉門」
獄門疆は一瞬で五条を飲み込み、元の立方体に戻ると夏油の手に収まった。
真人が閉じた獄門疆を好奇の目で眺める。
「それ、もう使えないんだっけ?」
「ああ、定員1名。中の人間が自死しない限り使用不可だ」
「ふーん、つまんな。まっ、何はともあれ、封印完了だね」