第19章 一世一代
これには今まで焚きつけるような言動をしてきた野薔薇もいつものようにはいかないと目をすがめた。
「なずな、ちょっと落ち着いて」
無垢蕗村から帰る道中の伏黒の様子から、なずなが思っているほど絶望的ではないはずだ。
「アンタにあんだけ言った後、伏黒も謝ってたでしょ、アイツ、テンパってただけよ。帰り道もメチャクチャ気まずそうにアンタのこと見てたし」
「まあ、あんな伏黒は滅多に見ねーけど……でもさ、八十八橋の任務の時もあんな感じだったじゃん?それと同じだって」
野薔薇の言葉に虎杖も相槌を打つ。
「うん……」
2人に励まされ、なずなの涙もようやく止まった。
ただ、やはりまだ伏黒に声をかける勇気は出ない。
「で、でも、伏黒くんを傷つけたのは事実で……私、声かけていいのかな……?」
「あーもう!まどろっこしい!虎杖、ちょっとセッティングしなさいよ」
「セ、セッティング!?」
それを聞いてにわかに慌て出すなずなを野薔薇がピシャリと遮る。
「なずなは黙ってて。で、虎杖、どう?偶然を装うなら、なずなの名前は出さなくてもいいと思うけど?」
「分かった、伏黒に空いてる時間聞いてみるわ。聞いたら渡辺に連絡するから」
虎杖としてもいつまでも伏黒となずなが気まずいままというのは居心地が悪いため、野薔薇の強引な発案にも素直にうなずいた。
「あ、あの、虎杖くん、できればその……私の名前、出してくれないかな……?」
「いいの?」
「……うん、2人にこんなに協力してもらってるのに、伏黒くんに声をかけられないなんて、その、言ってる場合じゃないかなって……」
先程とは打って変わった前向きな言葉に虎杖はニカッと笑う。
「分かった、渡辺が話したがってるって伝えとく。早く仲直りできるといいな」