第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「駄目だ」
公民館に辿り着いた4人が村長に儀式が終わるまでの生贄の護衛を申し出た直後の返答がこれだった。
だが、ここで逆上すれば相手に断る口実を与えかねない。
口答えやボロを出さないように交渉には伏黒が臨んでいる。
「……事前に伝えていると思いますが?」
「冗談じゃない。前回、儀式に呪術師が乱入をしたことで白稚児様はお怒りになってしまったんだ。そんなこと許すわけないだろう」
“白稚児(しらちご)”というのが呪霊の名前か。
村人に守り神か何かとして信仰されているのが窺える。
「先日、我々からお話している通り、儀式前の生贄を狙っているモノがいます。それは呪術師にしか対処できない」
「であれば村の外で撃退してくれればいいだろう。儀式には立ち合わせられない」
村長の頑なな態度は崩れないと判断した伏黒は一旦引き下がる姿勢を見せた。
「……分かりました。儀式には手出ししません。しかし、万が一がありますので、我々の内2人に生贄の護衛をさせてください」
「駄目だ」
譲歩しても無理か、頑固だな。
表情は変えずに内心舌打ちした伏黒は別側面のリスクに話を切り替える。
「生贄が儀式前に亡くなってもいいんですか?」
「ぬぅ……」
これには村長も考え込んだ。
儀式前に生贄が死んでしまうのは村としては非常事態だろう。安易には断れないはず。