第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
彼が使うのは傀儡操術。
東京校の夜蛾学長と同じ術式だが、最大の特徴はその術式範囲だ。
生まれつき右腕と両脚の膝から下の肉体、腰から下の感覚がなく、皮膚も月光で火傷を負う程に脆いという天与呪縛により、彼の傀儡の操作範囲は日本全土に及ぶ。
「登録していない傀儡があれば、内通者としての仕事はいくらでもこなせるからね」
「そう?あの人、結構目立つと思うけど……」
交流会でのメカ丸の姿を思い浮かべた虎杖が首を傾げたが、なにも全ての呪骸があの姿ではない。
「傀儡が蠅や蚊のようなサイズだとしたら?」
「そっか、そういうのもアリか」
歌姫の返答に虎杖もようやく納得した。
5人で地下を進んでいくと、歌姫がある部屋の前で止まる。
「ここよ」
与本人はその場から自力では動けないということだが、呪骸で抵抗されることも視野に入れて全員警戒態勢を取った上で、虎杖が呪力を込めて扉を破った。
「!」
「……えーと……」
「い、いない……?」
「やられたわね」
部屋の中はもぬけの殻。
戸惑いを見せる虎杖となずなの横で歌姫が歯噛みした。
部屋の壁は至る所が崩れて、椅子とベッドと思しき物は破壊されている。
連れ去られたのか、あるいは呪骸を使って抜け出したのか。
「……でも逆に」
「これでメカ丸で確定かしら」
伏黒や野薔薇の言う通り、与の内通は決定的だろう。
以後は残された呪骸がないかや漏れた情報の範囲を調査していくことになる。