第1章 妖刀事件
帰りの車中にてー
「で、どうだった?やっぱりドキドキした?」
この教師はいきなり何を言い出すのか。
「何がですか?」
「とぼけるなよ〜。なずなに押し倒されてだだろう?」
比呂彦の攻撃から庇われたのことを言ってると理解したが、正直あの時はそんなこと考えている余裕はなかった。
「別になんとも……」
「え〜ホントに?恵も年頃の男子だろ。意識しちゃったとかないの?つまんないな〜」
「というか五条先生、見てたんですか?」
「ん〜?」
五条から返答はなかったが、口元はニヤニヤと笑っている。
今に始まったことではないが、この人は性格が悪い。
「……でも強いて言えば、ちょっと悔しかったです」
自分より小柄の、しかも怯えきっていた少女に容易く引き倒され、庇われたことが。
小さい頃から呪霊を身近に見て育ってきたし、呪術師として数々の任務をこなしてきた。
自分の方が戦い慣れていると思っていたが、あの場で状況が良く見えていたのは彼女の方だった。
伏黒は唇を噛んで、車窓の外に目を向けた。