第35章 断章 波乱万丈!成人の日
ふらふらの千鳥足でなおも1歩、2歩と迫ってくるなずなはホラー以外の何者でもない。
なずなが再び短刀を振りかざす。
ギラリと光る白刃に田代は腰を抜かしたまま悲鳴を上げて後退りするが、間に合わず目を閉じることしかできない。
もう、終わった……
頭の中に幼い頃の友達との思い出、母に叱られた記憶、中・高・大学での成功や失敗が次々と流れてくる。
いわゆる走馬灯というやつだ。
……しかし、いつまで経っても想像していたような痛みは全くない。
「……え?」
ぎゅっと閉じていた目を開けると、なずなはかくりと膝を折って座り込んでいた。
酔って平衡感覚が鈍っている上に慣れないヒールの靴だったために転んだのだ。
ここで無力化しないと殺られる……!!
文字通り命の危機に瀕した田代は弾かれたように立ち上がり、なずなの背後に回り込み羽交い締めにしようと腕を伸ばす。
だが次の瞬間、
「いっ!?」
伸ばした腕は空を切り、一瞬の妙な浮遊感の後に背中に衝撃。
なぜか見える天井。
そこでやっと自分が仰向けに倒れていることに気づく。
……え、俺、投げ飛ばされた?
渡辺さんに?
にわかに信じられず、額には冷や汗が浮かび、さらに緊張感が高まる。
なずなの方を見ると、膝をついてゆらりと立ち上がり、怪訝そうな表情でこちらを見下ろしていた。
「……厄介れす」
そう呟くと、なずなはおもむろに携帯電話を取り出して誰かに電話し始める。
「厄介な蝿頭がいるろ、1、2、3匹……」
何、何?
ようとうって何!?
しかも3匹って、渡辺さん、何見えてんの?
それとも酔って俺が三重に見えてるってこと!?
ここに着いた時にはほろ酔いだった田代はもう完全に酔いが抜け、混乱の中生き残る道を必死に探した。
ホテルの窓は……はめ殺しになっていて開かない。
ドアから逃げるしかない……!
チャンスは電話に気を取られている今!!