第31章 断章 Happy Merry Birthday
ど、どうしよう!?
言うまで離してくれないって……!
困ったように視線を上げると、彼の深い紺青の瞳とぶつかり全てを見透かされたような感覚が湧いてくる。
しかし、プレゼントのラッピングのことはどうしても喉の奥につかえて言い出せない。
でもいつかはバレてしまう。
それも今日のうちのどこかで……
もしも皆の前でこのプレゼントを渡すことになったら……!
きっと何か言われるし、五条先生は『誕生日にクリスマスプレゼントをもらうのってどんな気分〜?』って恵くんにしつこく聞く。
恵くんにとって嫌な思い出になっちゃう。
せっかくのお誕生日会なのに楽しんでもらえない……!
そう考えると、今、誰もいない間に渡すのが一番いいのかもしれないと思えてくる。
「……もしかして俺には言いにくいことか?」
踏ん切りがつかずになずなが口を引き結んでいると、わずかに眉を寄せた伏黒が尋ねてきた。
その声色はどこまでも優しい。
その声に促され、なずなは少し震える手でトートバッグからプレゼントを取り出し、それをおずおずと伏黒に差し出した。
掴んでいた手を離してプレゼントを受け取ろうとした伏黒はそのラッピングを見て、思わず手を止めた。
濃い緑の袋にワインレッドのリボンのラッピング、袋の表面を走る上品な金色の文字にどうしても目が行ってしまう。
「あ、改めて、お誕生日おめでとう……あ、あの、クリスマスプレゼントじゃなくて、誕生日プレゼントのつもりだったんだけど、ちょっと失敗しちゃったというか……その……」
モジモジと手を揉むなずなは消え入りそうな声だ。
一方、理由が分かって安堵した伏黒は申し訳なさそうに落ちた彼女の肩をなだめるように撫でてプレゼントを受け取った。
「この時期特有だから気にするな。これ、開けてもいいか?」
「う、うん……!」
大きく頷くなずなを見て、伏黒はリボンを解いて袋を開ける。
中から出てきたのは手触りの良いマフラー。
「恵くん、黒い服が多いから、そのデザインなら黒にも合うかなって……どうかな?」
固唾を呑むなずなの様子が妙に可愛らしくて、伏黒はフッと笑った。
「ありがとな。大事に使う」