第29章 断章 善意武装ナンパ撃退術
「明太子!」
「いや、真希さんならこっちですって」
「おかか……」
狗巻と野薔薇がスマホの画面を見ながら何やら話し合っている。
「釘崎も狗巻先輩のおにぎり語分かるんだな」
まだ狗巻と会って間もない虎杖が不思議そうに2人の会話を眺めていると、近くにいた伏黒が頷いた。
「ああ、最近よく見るな、あの2人が話してるところ」
「へぇ、すげー意外。なんか釘崎ってそういうの嫌がりそうじゃん?呪言関係なしにちゃんと喋れって怒りそうな気がする」
「……確かに」
そう言われてみれば、と会話している2人に目をやる。
狗巻の言葉遣いを野薔薇が咎めているところは見たことがない。
伏黒も虎杖に言われて初めて気づいた。
そこへいつの間にか五条も混ざってくる。
「野薔薇、この前スカウトマンに扮した呪詛師に捕まって、棘に助けてもらったんだって」
「えっ、いつの間に!?」
「交流会前だから悠仁が死んだことになってた間だね」
そういえば初対面の時、スカウトマンに詰め寄っていたっけ。
呪術高専に入った理由が『東京に住みたかったから』なのだから街中でスカウトされることにも憧れていたのかもしれない。
そこにつけ入られたのか。
「あ、そうだ、なずながナンパされてるとこ、見たことある?超ウケるよ」
「……どゆこと?」
五条の言葉に理解が追いつかない虎杖が首を傾げる。隣の伏黒も初耳だと言わんばかりの表情だ。
「野薔薇はナンパを断るところも普通に想像できるじゃん?なずなはね、断り方が独特なの」
確かにおとなしい彼女がナンパを断るところは想像できない。
いやむしろその前に助けてやれと遠巻きに眺めて面白がっていただけだっただろう五条を伏黒は睨んだ。