第28章 断章 浜辺の誘惑
「ねぇ聞いた?“大事な人”なんだって!」
「聞いた聞いた。彼氏、メチャクチャ愛されてんじゃん!」
「っていうか彼氏もこんなに想ってくれる子放ったらかしちゃダメだぞ?」
「にしても“大事な人”かぁ、アタシも言われてみたい〜」
一気に盛り上がる3人に質問攻めにされるなずなはタジタジだ。
「学生?いくつなの?」
「15歳、です」
「中学生じゃないよね?高校1年生?初彼とか?」
「は、はい……」
「キャー!それでそれで?彼と初めて海?」
顔を赤くしてモジモジしながら答える初々しい様子に3人は一層盛り上がり、なずなは最終的にコクコクと頷くことしかできなくなっていた。
「……ってかさ、せっかくの初彼と初海なのにアタシ達マジでお邪魔虫じゃん」
「ヤバッ、ついつい楽しくて聞いちゃった。取らないから安心して?海、楽しんできなよ〜!」
そう言って手を振り、眩しい笑顔で去っていった。
「戻ろう」
赤い顔のままポカーンとしていたなずなを伏黒の声が引き戻した。
あまりにも自然に手を取り、指を絡める形でなずなの手はすっぽりと伏黒の手の中に。
歩く速さも普段とは打って変わってゆっくりと、まるで2人きりの時間を味わうかのように。
繋いだ手からドキドキとうるさい鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思ったが、今はこの手を離したくない。
そうやって少し歩くと、伏黒がおもむろに立ち止まって口を開いた。
「……さっきはありがとな。俺1人だったら、多分もっと険悪になってた」
「えっ、いいよ、そんな……私はただ必死だったというか、あ、あんまりスマートじゃなかったと思うし……」
先程の出来事を思い出すとまたも顔に熱が集まってくる。
繋いだ手が離れ、顔の両脇に上がってくるのにつられてなずなが顔を上げると伏黒の顔が近づいて、唇にふにりと柔らかい感触が。
……キ、キ、キスされた!?
仰天して伏黒を見るとコツンと額を合わせて満足そうに目を細めている。
一方なずなは周りに見られたかもとあたふたするが、景色が小麦色一色に染まっているのが目に入り、そこでようやく伏黒がなずなの帽子のつばを引き寄せて周囲から見えないようにしてくれたことに気づいた。