第28章 断章 浜辺の誘惑
「あ、釘崎達出てきた。おーい、こっちー!」
更衣場所から出てきた女子3人にいち早く気づいた虎杖が手を振ると向こうも気づいて歩いてくる。
……と思ったら、
「あれ?」
振る手を止めた虎杖を不審に思い、伏黒も顔を上げると、3人が男に声を掛けられていた。
「……ナンパだよな?助けた方がいいかな?」
そう尋ねてきた虎杖に伏黒はすぐに答えられなかった。
これがなずなだけだったら真っ先に助けるところだが、真希と野薔薇がいる。
この2人が知らない男に丸め込まれるのは想像がつかないし、特に野薔薇は妙にプライドが高いから下手に助けようとすれば後で文句を言われそうだ。
……まぁ、助けなかったら助けなかったで嫌味を言われそうなのだが。
どういう時にキレるのかイマイチよく分からず、どう対処するのが正解なのかと考えていると事態が動いた。
真希が野薔薇となずなを両脇にグッと抱き寄せ、男に何か言うと、2人の手を引いてこちらに歩いてきたのだ。
男の方は呆然とするばかり。
しかも手を引かれている野薔薇もなずなも顔を真っ赤にしている。
何が起こったのかとついていけない1年男子2人の後ろから浮き輪を膨らませていた狗巻と乙骨が口を開いた。
「明太子」
「3人とも大丈夫だった?」
「ああ。それに少なくともさっきの奴はもう来ねぇよ」
一体どんなやり取りがあったのか、乙骨が聞こうとすると、その前に野薔薇が真希の手を両手で掴んで自分の胸の前に持ってくる。
「真希さん、私、真希さんに一生ついていきます!」
そして、真希のもう片方の手と繋いでいるなずなはというと、どこか遠くを見て小さく呟いた。
「ふ、ふわふわ……」
「渡辺?」
「ふかふか……」
「……なんか『ふわふわ』と『ふかふか』しか言えなくなってんだけど」