第26章 断章 優しい優しい帰り場所
なずなが重たい足取りでやっと自宅前に辿り着いたのは深夜2時を回った頃だった。
ああ、疲れたな……
帰ってきたという安堵感で今までの無意識の緊張が解けたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。
出張先の単独任務で呪霊を祓ったと思ったら、近くに別の呪霊がいると緊急の連絡を受け、そちらに急行。
それを終わらせ、東京に戻る途中、今度はまた別の場所で二級術師が手こずっていると連絡が入り、再び遠方へ。
事態を解決したと思ったら、その二級術師の任務は呪霊の祓除ではなく呪物の回収だったと判明し、結局それを手伝って……
それぞれの移動の合間に報告書をまとめつつだったので、休息という休息を取れず、働き詰め。
普段から忙しいのだが、この数日間は稀に見る慌ただしさだった。
緩慢な動作で鍵を開け、玄関でノロノロと靴を脱ぐ。
行く時はさほど重くなかったキャリーバッグも、溜まった疲労からか重く感じてしまう。
あとはお風呂に入って、着替えて寝よう……
とりあえず荷解きは明日でいいかな……
回らない頭でそんなことを考えながら、寝室に向かう。
寝室のドアを開けるとベッドの上には見慣れた、しかし最近は見ていなかった広い背中。
恵くん……
彼も自分も一級術師。
同棲しているにも関わらず、その忙しさで一緒にいられる時間は少ない。
実際、2週間ほど会えない日が続いていた。
静かにベッドに近づいていく。
起こしてはいけないと思いつつ、なずなの頭の中は彼に触れたいという思いがとめどなく溢れてきた。
その欲求に抗えぬまま、ベッドに倒れ込む。
あったかい―……
恵くんの匂い―……
眠っている広い背中に愛おしげに頬をすり寄せる。
ずっとずっと、淋しかったよ……
あたたかいベッドに身を埋め、久しぶりの彼の匂いを胸いっぱいに吸い込めば、襲いかかる睡魔に勝てるはずもなく―……
なずなの意識は急速に沈んでいった。