第1章 妖刀事件
辺りにはひどい鉄の臭いが立ち込めている。
さっきまでの騒ぎは嘘のように静まり返っていた。
寒くないはずなのに、震えが止まらない。
怖い、怖い、怖い
私、ここで死ぬんだろうか?
兄は母を庇って、母は私と弟を逃そうとして、あっという間に殺された。
訳も分からないまま弟の手を引いて走ったが、追いつかれてしまった。
腕の中にいる小さな弟は、白い顔でぐったりとしている。
きっと自分もすぐにみんなと同じになるのだろう。
だって家族を斬り殺したモノが、今目の前にいるのだから。
「……な、んで……?」
振りかぶった凶刃は血に塗れてぬらりと赤く、自分に向けて振り下ろされる様は、まるで時間が遅くなったかのように、ゆっくりして見えた。