第3章 鯨
自分の大事、か。
──「遠距離だろうと側にいようとそんな変わんないんでしょ?」
さっき美羽ちゃんはそう言った。
私たちにとって肉体の交わりは、
想いを通じ合う大きな手段ではあるので、
そしてそれ以前にかその後にかは決め難いけど、
身体の相性は抜群なわけで…
そういう意味では触れない、
セックスできないというのは言葉にできないほど大きな違いだけど。
…でもそう、それでも、変わんない。
電話しても大して喋らないし、
言葉で伝えるしかない物理的な距離があってもなお、言葉は少ない。
でも私たちは通じ合ってる。
私たちにしかわからない、確かな何かで。
世界はそれを愛と呼ぶかもしれない。
絆と呼ぶかもしれない。
幻覚だと、思い込みだと呼ぶかもしれない。
でも、世界がどう呼ぼうと関係ないのだ。
それは鯨の歌よりずっと遠くまで届く、
そしていつまでも続く私たちの歌。
私たちだけの、歌。
fin