第2章 玉ねぎ
「じゃあさじゃあさ、今の話を整理するとさ、
りさ子は悲しくって泣いていたってことだよね?ソウデショ?」
ドレッシングを作るため玉ねぎを刻み終えた私に
カウンターキッチンの向こうから頬杖をついて
ずけずけと話しかけてくるこいつ。
元はと言えば、
昨日の夜あんたがフードプロセッサーを酷使して煙出したから
私は今こうして玉ねぎの襲撃にあってるというのに。
まぁ、プロセッサーを使っても涙は出るけどさ。
『…違うよ、愛を思い出してたの』
「愛? ソウダネ、愛とは言ってた。けど…」
『………』
「悲しみの理由はいつもいつも愛だったって言ってたじゃーん?」
『………』
「それで泣いてたら、それは悲しくて泣いてるってことでしょ?デショ?」
『泣いてたのは単純に玉ねぎが目に染みただけ』
「でもさでもさ、その前にさ… 転がってるって言ってたでしょ?」
『………』
「愛っていうのは転がってるんだ って キッチンなんかにね、って」
『………』
好きに言わせておこうと、黙って作業を続けてみれば
ほんとに延々とズケズケと踏み込んでくる。
まぁそもそも感傷的になった私が
こいつにぽろっと話したことが起因してるんだけど。
「他にはどこに転がってるの?
それとそれと、玉ねぎなんか切ってると思い出すって言ってたのはさーぁー」
ふざけたやつ。
掴めないやつ。
ゲスなやつ。
そのくせ、人の話をよく聞いている。
よく聞いてるだけじゃなくて、裏側も想像している。
だからほんと… 厄介なやつ。
『あーもう、覚!おしまーい!
っていうかそのチョコわたしにも一粒ちょうだい!』
「ふふーん、しょうがないね〜
はいこれ、りさ子の好きなプラリネだよ〜」
人差し指と親指で摘んで私の口に運んでくれる。
口溶けよし。
甘さよし。
プラリネクリームの塩梅よし。
カカオとプラリネの完璧なバランス。
『…んー 美味しい。 覚の作るチョコが一番美味しい』
「へへーん まぁね〜 俺、チョコレートだーいすきだから」
覚はうっとりとした顔でそう言って、
最後の一粒を自分の口にそっと放り込む。