第8章 空
『よかった、信介さんにぽろっと話してみて』
「…? よぉわからんけど、そんならよかった。
さて、と。 俺はそろそろ仕事に戻るんやけど、りさ子ちゃん予定は?」
『予定?』
「何時までに宿に戻ろうとか、他にも行きたい場所があるとか、そういうの」
『あ、そういうのはなくって。 しいていえば、』
「………」
『どこか美味しい、家庭料理の食べられるお店〇〇市内近辺で知りませんか?』
「〇〇市内近辺? そらまたでっかいなぁ、範囲が。 そもそもそこまでどうやって行くん?」
『バスでもいいし、バスと電車を乗り継いで帰るのもいいかもしれない。
あ、行きにくい場所なら、タクシーを捕まえます』
「美味い店かぁ。俺、あんま外食せんから詳しくないんやけど…
米をな、つこてくれてる店は、後輩んとこのにあと2つあんねん。
どこも美味いけどどっちも日本の家庭料理とはちゃうなぁ。 美味しい家庭料理って、日本のやろ?
あ、でもあれか、おむすびは家庭料理?」
『おむすびは。家庭料理…かな、うん。 ソウルフード』
「…あと1時間くらしたら終わりにするんやけど」
『…?』
「待てる?」
『…?』
「悪い、先走ったわ。 店まで連れてこか?」
『え、あ…』
質問のやり直し?
連れてこか?にうん、と言ったら、
あと1時間待てる?とくるってこと?
ううん、1時間待てるか聞いて待てるなら仕事してから連れてく、
待てないならそれでさようなら…じゃなくて信介さんはきっとお店までとは言わずとも
近くの駅とかまで連れて行ってくれる気がする。
それともあれかな、ちゃんと、仕事を続けるかな。
…ってそんなことゴニョゴニョ考えてないで、
『待てます』
駆け引きもなにもいらないから、素直に返事しよう。
質問しなおしたのに、先の質問に答えたからか、
目を丸くして、それからふって微笑んだ。
信介さんの笑顔の破壊力ったら……
思わず目を逸らしてしまった。
どきどきが、すごい。