第8章 空
『信介さんは、おいくつですか?』
「26。 りさ子ちゃんは?」
『24です。 そんな歳変わらないのに…』
「落ち着いてみえる? 老けとるんかもしれんなぁ」
『老けてなんか… しっかりした身体して、肌艶もよくて、白目も綺麗』
「白目が綺麗?」
『白目ってすごい、身体の状態がわかりません? 目は口ほどに物を言うって言うけど…』
「それはそう言う意味ちゃうやろ、どっちか言うたら心の状態やろ」
信介さんはそう言ってくくって笑って、それから、
「ごめんな、水差したわ。 続き聞かせてや」
ってこっちを見てふわっと笑う。
瞳も、白目も、本当に綺麗だ。
『いや、続きなんて特にないんですけど…… どんなにお化粧しても隠せないとこっていうか。
白目が赤かったり、黄色かったりするのはカバーしようがない。
自分で、生活を整えて、ちゃんとしないと、綺麗な白目には戻らないから』
「へぇ…まぁ確かにそうかもしれんな。 ええな、それはええかも。
健康にも繋がってくるしな。 それに、」
『…?』
「ちゃんとするんは気持ちがええからな」
『ちゃんとする…』
「言い出したんはりさ子ちゃんやで?」
『あぁ、でも私の言うちゃんとは…』
食事の質、食事の時間、眠りの質、眠る時間、運動の質。
そういうことだ。 極々基本的な、それ。
でも信介さんが言うとそれは途端に、神々しいものに聞こえる。
『なんでもないです。 そうだそれと、空から見られてるって、そのこと自体にはなにも思わない?』
「ん?」
『いや何度か、そんなことを呟いて。 いつもなんか不本意な受け取り方をされて』
変な日本語、とか。
不思議ちゃん、とか。
神秘的、とか。
スピ系?とか。
不本意な感じがあまりに多くて、言うのが億劫になった。
でも信介さんには普通に喋ってたんだから不思議だ。
そして、それを信介さんがなんでもないことのように聞いてくれたことも。
理解し難いという表情はしていたけれど、
それはどうも空から見られてるってということにではなく、それに続く、
安心するっていうわたしの心情に、という感じがした。