第8章 空
いいな、そのプラチナブロンド。
いいな、その肉付きのいい女性らしいカラダ。
いいな、その目尻の上がり方。
いいな、その垂れ目具合。
いいな、その薄い唇。
いいな、そのおでこ。
いいな、その力の抜け方… いいな、いいな、いいな………
別に自分のことが嫌いなわけじゃないけど。
たくさんある、無い物ねだり。
それから嫉妬心。
「ほんっと、りさ子ちゃんって脚長いし細いよね〜。腰の位置。
肌も綺麗だし。それだけでも羨ましいのに、この顔ってほんと、ずるい」
「ね、今月***の表紙になってたあの子とかさ〜…
何であの子が表紙なんだろね、今目の前にいるりさ子ちゃんと雲泥の差」
「顔よし、スタイルよし、肌質よしってもう、完璧。
あの子なんてどうせハーフ顔ってだけでちやほやされてるだけでしょ」
細さは別に売りにしたくないけど…だってふっくら柔らかい方が私には美しく見えるから。
でも結局私はこの細さ含めた体型で、仕事を得ている。
そんな風にして様々な感情や想いが入り混じった末に、
『…まぁね、あの子はどうせ顔だけだし』
私を煽てる言葉に乗っかって、必要のない意地悪を吐いてしまう。
そんなこと言ったところで何も変わらないし、その、あの子は実際、顔だけなんかじゃない。
なのにどうしてかな、嫉妬心が、意地悪が私をぐるぐると飲み込んでいく。
ジブリに出てくる黒いやつみたいに、私を飲み込んでいく。
…こんな時は。
『ちょっと、屋上行ってきてもいい? 次までまだ時間あるよね?』
「あるけど、これ羽織ってって。 ちゃんと日除けしてね」
『はーい』
たまには思う存分太陽を感じてみたい。
ジリジリと肌を焼く太陽を、感じてみたい。
でもそれは叶わないけど。
叶わないけど、それでも。
空を見上げると、私を飲み込んでいた黒いものがすーと引いていく。
消えていくわけじゃない、引いていくだけだけどでも。
引いていくだけでも、全然違うんだ。
屋上で一人空を見上げ、伸びをして。
リフレッシュ。
私は空から見られてる。
そう思うだけで、ラクになる。