Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石Ⅵ 気象系
第61章 智の戦い
雅若は、お可哀想に緊張しているのか…… いつもは健康的で。紅く染めた頬をされているのに。青白い顔色をされていて。
しかし、お小さいながらもキッと外喜に 鋭い視線を向けておられる。
翔禾姫は、さすがだ…… それと悟られないように…… 視線で客間の中の人や物の配置を確認され。障子戸の外の和也様と。天井裏の私まで確認されたようだ。
「さて。 腹を割って話したいと思いましてね。今、饅頭とお茶を用意させますゆえ」
外喜の声音がどこか弾んで聞こえて。
(腹が煮え繰りかえるっ)
翔禾姫。
(何を思われているのですか?)
無表情で外喜を見つめておられる。
しかし……私は心の中で。外喜よ。
(お茶の道具を自分から見えない所に置いたのは、間違いじゃないか?)
そんな事を思っていた。
こちら側としては ありがたいけど。
ゆずな殿は一人分の茶を立てている。
そして。おゆり殿は音を立てぬよう慎重に。 帯び紐に付けていた巾着を外すと、茶壺の中の粉茶を茶ベラにて袋の中に入れて。
( 粉茶を巾着に入れるのは頼んだけど)
次に竹筒と……竹筒のような入り口の穴が狭い物に入れやすいようにか。一ヶ所三角に尖らせた、変わった形の柄杓みたいな物を取り出すと。
(日頃持ち歩いてるのだろうか?)
竹筒に、残っていた 水分を素早く火鉢に捨てたおゆり殿。
瞬間、 暖められた水が ジュっと…… 一瞬動きを止めた、おゆり殿とゆずな殿。
「 茶はまだか!?」
後ろを振り返る事なく、二人に 声を荒げた外喜。
「 はい。ただいま。申し訳ございません」
謝りながら 小刻みに震えているおゆり殿を気遣ってか、ゆずな殿が柄杓を取ると、おゆり殿が竹筒を抑えて……
(可哀相に……)
竹筒に茶釜より、湯を移し蓋をしてしっかりと帯に結わえ付けたおゆり殿。
湯は、熱いから持ち出さなくていい。なるべくゆっくりとお茶を立てて、時間を稼いでくれたら頃合いを見計らって。私が合図を送るから。と伝えていたのだが……
巾着に粉茶を入れるのは、外喜の視界にお茶道具がある時だけで良いとも。
頼んだ事以上の事をしてくれた。おゆり殿とゆずな殿。ありがたかった。