第5章 思惑…

「私は…… お家騒動に家督問題で、様々な立場で動いている人達を不幸にはしたくないのです。なずな」

「翔禾姫様……」

「私の母上の翔菜《しょうな》と、父上の爽《そう》は、とても仲が良くても子宝には恵まれなかった。和智翔ノ国を治める者として、母上様は二宮家から婿養子として入って来られた父上に側室をと……松本より迎えた側室の純梨《じゅんり》様が、潤兄上をお産みになって…… 一年五ヶ月後に正室である母上から私が産まれて……十年後に弟の雅若様が産まれた」

「翔禾姫様……」

　新年の、*睦月《むつき》の二十五日に十六歳になられる翔禾姫様。ご誕生より十年後の。**師走《しわす》の二十四日に、弟君であられる雅様がお産まれに……

「やはり…… 母上様は…… 六年前、雅若様をお産みになられた後…… 亡くなられたのには、何かが起きて…… なのかしらね？ 私の運命ならば逃げてばかりはいられないのよね。和智翔ノ国を治めるにも……そうでは無い道を選ぶにも真相を突き止めなくては……」

「翔禾姫様……」

翔禾姫様の悲しきお嘆きに。私は、『翔禾姫様』しか返せないのがもどかしくて。


「まずは、それぞれの家臣達の思惑と心を同じくして…… と見せ掛けて…… 仲のよろしい和也様…… 潤兄上。二人の相談相手の智殿と、話をする事から始めましょうかね……雅若様の事について相談したい事もありますし」

「…… 翔禾姫様…… 色々な事を悟られ過ぎていて……恐ろしいです……」

　いつの日か、立ち上がって下さると思っておりましたが……

　私の考えている以上に、色々な事をを考えておられた翔禾姫様……

　この先もずっと翔禾姫様の御側でお支えすると……

　改めて心に誓ったのです。

*睦月 一月
**師走 十二月