Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石Ⅵ 気象系
第25章 娘よ幸せに……
二十年前 *長月《ながつき》
「婿取り……ですか……」
和智翔ノ国 桜城 の姫君 翔菜姫は、母の翔希《しょうき》の言葉に、呆然と呟いた。
代々、和智翔ノ国は女性が櫻井家を治めて来た。
分かっている。分かってはいるのだ。和智翔ノ国を治めて行く身としては、婿を迎えねばならない事は。
(私は誕生日が来ても……まだ十六ですのに……)
それでも十五の少女が、((もう……)(早い……)) そんな思いを抱くのは致し方ないことだと思うのだ……
「相手は、母上様と私とで選んだ方で良いか? いや、絵姿を用意するゆえ。翔菜姫の良いと思う方を選んだ方が……どう思われますか? 翔希の方?」
そう、父親の陽《よう》が、奥方の翔希の方に尋ねると。
「そうですね殿様。翔菜姫の願い、思いを優先してあげたいと思います。翔菜姫? 大丈夫ですか?」
そう、夫の陽に返しつつ。翔希の方は、どこか無表情で自分達を見つめている翔菜姫が心配になった。
翔希の方には、痛いほど娘の気持ちが分かるのだ。女の身で、和智翔ノ国を治めて行く重圧、婿を迎える事。
( 翔菜姫よ、許して……)
かつて、自分の思い悩んだ事を娘も…… その事を思うと母親として、翔希の方は、胸が張り裂けそうになった。そして……
(私は翔希の方に、選んで頂き幸せで。心から翔希姫様を一生涯御守りすると誓ったのだ。翔菜姫の選ぶ男も翔菜姫を大切にして欲しい……)
陽は、父親として、相手への願いと。娘の幸せを願わずにはいられなかったのである……
*長月 九月