第89章 殿様から和也へ

ただただ、良かった……しか出て来なかった。

浜辺にて、物語の構想を練りながら、館での様子を思い返してた。


休日には、 物語から日記的な物まで、書き記すのが私の息抜きなんです。


視界の隅に、海辺にて釣りをしておられる智殿が見えているのですが……

(気にしないようにしましょう)

翔禾姫様と雅若様の母としての表情にて、再会の喜びを噛みしめていらした翔菜の方様。

翔希の方様と大殿様の娘として……

翔希の方様にしがみつき号泣されている翔菜の方様を優しく抱きしめて同じく号泣されている翔希の方様。更に、お二人を包み込むように静かに涙されていた大殿様。


少し離れた場所にて、翔禾姫様と雅若様はお三方を見つめておられ。雅若がヒックヒックとしゃくりあげているのを、翔禾姫様が優しく声を掛けながら、頬に伝う涙を襟元から取り出した、四角く縫った綺麗な布にて拭って差しあげながら。翔禾姫様も涙されていた。

その様子に私も、涙溢れて来て。それは、純梨の方様も、潤様 なずなも、智殿に、早月殿も同じ。

殿様は、涙は見えないけど潤んだ瞳にて……泣いておられる純梨の方様の背中をさすりながら、翔菜の方様達の様子を見つめておられた。


構想を練りながら。何刻経ったのか……


「和也様失礼致します。殿様より館の客室にて話しをしたい。との事でございます。案内致しますゆえお願いします」



と、館の使用人なのでしょう。呼びに来てくれて。

「ありがとうございます」

私は急ぎ客間に向かう事に。

さて、 客間に着くと上座に殿様が。下座に私は腰を卸したのですけどね……私の左隣に、雅若様が座っておられるのはどういう事なのでしょうね？　

殿様は、苦笑されながらも面白いというように何もおっしゃる気はないようですし。


（なずな大好きな若君ですからね。監視の為におられるのですよね？）

本当に侮れないお方ですね……

「 和也よ。 常々そなたには、聞きたいと思っている事があるのだが」

（殿様……）


雅若様がおられる事で、 どこか和やかだった空気が引き締まりましたね……