第16章 覚醒のトリガー
彼女の復讐を見守り、それ以上はいけないと殺す手前で止めさせた。
春日だからってわけじゃない、ハルカ自身の精神はとても強いのだと思う、けれどもそこまでの憎しみを抱えていたなんて知らなかった。時々夢で魘されてるようだけれど、それが彼女のずっと抱えていたトラウマだったなんて僕はちっとも知らなかった。ただ、リベルタの恐怖が残っててそのうち消えるものなんじゃないかなって思ってたけれど…ここまで無茶するくらいに、共倒れ覚悟くらいに殺意を持っていただなんて知らなかった……。
ぐったりとしたハルカを抱えて、憲紀がハルカを見て極度の貧血だと言う。血については加茂家が扱う術式だからこそ、すぐに分かったんだろ。ハルカの様子もそうだけれど、持ち上げたら朝より軽かった。その軽くなった分、血を失ってるのならば式髪の白髪具合とか言ってる場合じゃないくらいに、命の危険があるって分かる。
感情は呪力のトリガー、式髪じゃなくて腹部から溢れる呪力。
呪いだけじゃない、人に与える苦しみ。彼女が手に入れたのはとても大きな力。僕が自信を持つほどの力を持たないで欲しいって願った中で彼女が手に入れてしまったのは強い力だったんだ。
大きな力なんて皆持っているけれどその血筋の特異さについてどうして深く考えなかったんだ?
反転術式ではないのに何故か回復に特化した呪術。呪力を髪に溜め込めば最終的な死。
至るところにおかしな点はあった、吸い取った怪我を呪いや人に反映させる事もなにも起こらないなんて思えただろうに。
復讐劇を終えたその細い手に差し出した手。やけに冷えていて、沖縄で繋いだ手と大違いだなんて。日焼けとかしてない、肌が白いだなんて。
そんなの、体内の血液が大幅に消えていたなら肌の色もそうなるはずだろ…っ!
「傑……この場を任せても良いか?」
青白いハルカを抱えて傑の方向を見る。
それぞれが慌ただしい。激しい戦いの末に残ったのは後片付け。ハルカが元気であれば仲間の回復も行えただろうけれど今はそんな事が出来ない。
傑が俺と、俺が横抱きにしてなるべく頭を下にしているハルカを見やった。せめて頭に血を送り続けないと。手足は今はどうなっても良い、生かす事を考えての俺が出来る、唯一の処置はこれだけだった。