第16章 覚醒のトリガー
ふわ、と悟は優しく微笑んだ。
すっかり私の中から消え去った暑苦しい黒い衝動。そして突き動かしてた感情。
憎い相手の肩に触れていた手を離し、もう片手、掴んでたボスの頭髪を離せば支えるものも無くなって、そのままゴン、と顎を打ち呻くリベルタのボス。
どうしてだろうか、悟と話していたら心が落ち着いてそんな気分にならなくなってしまった。あんなにもさっきまでの燃え盛る感情が鎮火してしまった。
ズキズキとする頭のままに、私からのそのそと不慣れな陸を歩く亀のように胴体で這って逃げるボスの姿を見てから悟を見た。
『……ありがと、悟』
「……ふふ、どういたしまして」
立ち上がった悟は私に片手を差し出す。それは右手。その大きな手に触れた私の左手、悟の手首を掴む。
小さく悟は笑った。
「まあ、構成員達はとりあえず生きてるのはまたお縄、死んでるのは入念に処理するからまーた忙しくなっちゃうね。
さっきまで沖縄行ってたのが嘘みたいにオマエの手、冷えてんね~…顔も白いし、」
確かに沖縄は暑かったなあ。東京に戻って、ここの地下空間はひんやりしてるから冷えたのもあるかも。
片足を立て、ぐんっ、と立ち上がる。
『ふふ、まさかこんな事になるなんてさ、思ってなかっ……』
立ち上がらせようとした悟と、立ち上がった私。
座っていた事がまだマシだったんだと。片足で体を支える瞬間にぐらりと世界が歪む。両足でバランスを取ろうにも身体が動かない。なんで…?
目は開いていた筈がブラックアウトしてて、温かい手が支えてる。
「ハルカ、ど、どうし……っ、ハルカ?ハルカっ!」
『む、り…うごか、』
「何、無理?動かない?ハルカっ…」
"どうしたんですか、先生!?──ハルカ、……っ…、"
"失礼……かなり血の気が──血、……──、ふむ、"
ぼんやりとした意識の中で会話が聞こえてくる。
体の中の呪いの血を失い続けた結果だからこうなってしまうのも当然だよな、と思う。殺そうと無理に術を使い、血を犠牲にしすぎた。1回だけでも結構キツイ中でたくさん使ってたじゃん。
結局私、何回使ったっけ?駄目だ、今は何も考えられないや。
思考さえも上手く出来ない中でただこの人の腕の中は安心出来ると暖かい悟に身を委ねた。
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