第16章 覚醒のトリガー
ゴッ、という音、それに続く鋼鉄の振動音。音の出どころに目をやればタンクには一文字の亀裂。それから首筋に当てられた冷たく硬い物。
あの夏油の相手をしているのはパルスという男らしく、ボスの司令にはっ!と返事をした。
タンクを傷付けた瞬間から周囲に漏れ出す溜め込まれた呪力。ぞくっ…とすればこの場で使役されている両者の呪霊がより強化されている。ボコ、ボコ…と肉が沸き立つ様に変形してより凶悪な姿へと変わり果ててる。
呪霊同士の戦いならまだしも、呪霊と呪術師が戦って居たら……と視線を七海の方や悟に向きたくても首に当てられたものが動きに合わせて鋭い痛みを与える。下手に動けばより傷付くようにと。
頭上から短い笑みが聞こえた。
「……ご結婚おめでとうございます。多少価値は下がったものの、春日の純粋な血を引き継ぐ者は貴女、たったひとりですから希少価値があるというのは変わりませんね。クリミアは今は手に届かなくともとりあえずあなたが入ればなんとでもなる。多少強引でも腹にワイヤーを通してあげますよ」
悟や龍太郎の様に、私の首根っこを掴むように服を掴んで無理矢理に立ち上がらせたリベルタのボス。
立ち上がる際にちらりと見えたのは、凶暴化した……恐らくは撒き散らされた呪力を吸い取って等級の上がった呪霊に苦戦している京都校の人達や一年の皆……悟が見える。
一撃を躱せば、空間がぐらぐらと地震のように振動をする。最悪、崩壊の危険性だってある。また、当たれば怪我だけじゃ済まない。
パルスと呼ばれた男は周囲に警戒しながらに捕らわれた私とボスの側にやって来た。呪霊に指示を送りながら。
「へへっ…、呪力も漏れ続けるここに居れば呪力切れには困りませんからね」
「残された容器に多少は圧縮しましたが、こちらのタンクの容量もあと少し、あなたが脱出するまではなんとかなるでしょう。問題が特級呪術師の夏油傑と五条悟。なるべく無力化をしたい所ですが、五条悟については無力化が出来そうですね……」
『……』
私が捕まってる事で悟が攻撃が出来ない。それが目に見えてる。肌にぴったりと押し付けられた刀はそれだけを狙う事が難しそうで。
また、この場所に居続ける事でリベルタ側が有利になると見た。