第16章 覚醒のトリガー
144.
「ハルカっ!」
背後からの悟の怒鳴るような私を呼ぶ声がしたけれど、立ち止まることは出来ない。全速力で倒れた祖母の元へと駆け寄った。
本当は祖母よりも真っ先にボスの元に行き、私が今まで治した中で一番の苦痛を与えたかった。けれども身体が向かったのは身内の元へ足を向けてた。血の繋がる祖母を間に合うならば助けたいと思っていた。
例え道具に思われようとも助けられる命なら助けたい、死なせたくないと思ってる。リベルタの構成員の裏切り者だってそうだった。怯える姿が記憶に焼き付いてる。
……例外に、リベルタの非道の限りを尽くしたやつらは許せないのだけれど。
血溜まりで顔面から伏せるように倒れ込む祖母の元、膝を着いてしゃがみ込む。その両肩に触れて側面、仰向けに転がした。力なくされるがままの体。呼吸さえしてない。斬り裂かれた傷口から、あのリベルタ構成員の時みたいな、脈に合わせた出血もなく、ただだらだらと血溜まりが広がるだけ。
絡まりそうなワイヤーに血液が纏わり付いてる…。
『……間に合え…っ』
どんなに触れても、祈っても……。
──結論から言えば、触れて式髪を使おうとしても祖母の深く負った傷は治ることがなかった。
触れていたらどんなに酷い怪我でも今では10秒以内に完治するのに、傷の肉が盛り上がる音も別れた左右の組織がくっつき合う事もなく。動かした際に溢れる血液は脈打つ事無く動きに合わせてじわりと傷口から漏れ出すばかりで止まらない。
祖母の肉体は力なく私に転がされ、起きろ、と揺すれば四肢はぶらん、と胴に着いたままに動くだけ。
半分ほど開いた瞼の中の瞳孔は開いて黒目がとても大きく見える。その瞳にうっすら映る私は焦った表情をしていた。あれほど嫌だと言った祖母だというのに、こういう顔を今更しても良いのか分からない。
『……っ』
完全に祖母は死んでいた、受けた傷がもう治ることはない。目の前でまた人が亡くなった。
「パルス、しんがりを頼みますよ!」