第16章 覚醒のトリガー
だったら。
……だったらさあ。
彼女らにこっちに来て貰って貰えば良いんだよ。
それは全員じゃなくても良い、欲張らずともそれで充分。だって反転術式"怒髪天"は領域内の彼女らの遺髪を召喚しているのだから出来るはず。
こっちは末裔、先祖なんて使役するこっちが出向かずとも来て戦って貰えれば良いんだから。面倒くさい領域展開をしてまで全部の呪力を消費するよりこっちが消費する呪力が減って得じゃん。
血液が血管をちくちくさせるような感覚と頭部の毛穴がぶわっ、と開くような感覚。私の全身に流れる血液がそうだそうだ、と肯定でもしているみたいな…。
祖母は一族保守の為に家を守る為の特化を。縛りを使って家から離れなかった。呪いの寄り付かない生きたバリケード。
母は一族を緩やかに滅びさせる為に私から呪いを遠ざけ、私から呪術などの記憶を封じ、私が受けたものを母自ら吸い取って犠牲となって死んでいった。
一族は髪ばかりを呪術に使っていて、血は受け継ぐだけのものと解釈していった。彼女達の生きた証を私は書物で読み、領域内で見て今の私はそれらを真似てる、生き方をなぞっているだけ。まだ私は私のための呪術に関する生き方を見付けていない。
血に目を着けたのは誰も居なかった。気が付いたのは私だけだ、なら私は今までの春日の一族に無いものを見つけられているんじゃないのかなって。
私が髪も血もその両方を使って犠牲になるためじゃない、生きるために一族の呪いを使わせて貰うんだ。
誰かのために犠牲になる時代はもう終わりにしよう。末裔ほど強くなる程の呪いはもう、少しずつで良いから解呪していけば良い。禪院を呪ったっていっても、私の知ってる禪院の人は憎む相手じゃなかった。
駆け巡っていた黒い感情はゆっくりと自分自身の中に落ち着いていくように穏やかになっていく。殺意は残るけれど凪の状態となっていく心。
もう大丈夫、頭の中で散らかしたたくさんのテキストは一冊のノートに纏め終えた。しっかりと自分の物にするように、ハルカと名前を付けたノート。私自身が纏まった。これで良いんだ。
車窓から流れていく風景を見るのをやめてゆっくりと隣の悟を見た。彼は一言だけ、ん?と声を漏らして優しく微笑む。
そんな悟に私は少しだけ笑った。