第2章 視界から呪いへの鎹
12.
『じゅじゅつ…こうせん…?へー、悟さん本当に教師だったんだ……』
相手はまだ出ないのか、携帯端末を耳に着けたまま私に答える。
「あっ、ハルカキミ僕が先生やってるって信じてなかったの?こう見えても僕ねー、1年の担任なん…、
あ、出た。もしもし?学長?そう僕。今から絶滅危惧種を数時間後に学校に連れてくけど良い?ちょっと呪術について無知過ぎてさー」
『絶滅危惧種て。無知て』
まあ確かに一時は何十人も居た血族も今じゃババアと小娘の生き残りですけれど!ババアが死んだら小娘ひとり、完全に末代決定、絶滅危惧種なんですけれど!
電話をしている失礼マン。私は思わずチッ!と舌打ちをして電話が終わるのを待つことにした。
「なになに、どういう事かって?上層部には絶対に言わないって約束する?約束してよ?実は春日一族の子なんだけれど……うん?訳ありでね~かくかくのしかじか、じゃ伝わらないだろうからそっちに行ってからで…あーそういう仕事は僕は面倒くさいから七海に回してよ、じゃあ僕の要件伝えたし切りますね~」
何やら他の人に仕事を丸投げしたであろうやり取りを聞き、その七海という人物のストレス度が想像出来る。きっとこの人は色んな人にストレスを与えているんだろうな、と学校関係者を少しばかり哀れんだ。
通話を終えて携帯端末をしまうと、悟は棚から一冊適当な本を引っ張り出す。
「テキトーな一冊っと…これで良いや。
帰る為に朝纏めた荷物持ってくるのと、本持ち出して良いか確認してくるからさ、そこの本持ち帰れるように纏めてて。僕はすぐに戻るつもりだけど、もしも昨日みたいな貞操の危機があったらまた叫んでね」
直感だけれど適当に持ち出しても無難な本をフェイクで祖母に持ち出して良い?って聞くんだろう。
そう聞かれたら祖母は"良い"と言うだろうなぁ。手に取った本が"呪術とは?"なんて呪術を知らない私から見ても基礎みたいな本だし…余計にね。
昨日みたいな貞操の危機。昨夜の浴室での事だろう。あのもう少し遅ければ悲惨な結果になった事件を思い出した。そして、助けて貰った奇跡も。
『また叫ぶって……悟さんを?助けてって?』
私はあの時、なんて言ったっけか。必死だったからよく覚えちゃいない。