第2章 視界から呪いへの鎹
11.
「はーい、朝食遅れましてごめんねー…」
「……どうぞ、お座りになって下さいませ」
和食の並ぶ座卓。祖母の呼び掛けから結構経ってから向かった一室。悟が襖を開け、屈みながら先に入ったのだけれど私はその悟の後ろから続いた。
祖母が穴を開くほどにじっとサングラスを掛けた悟を見ている。その理由は顔が良いからとかじゃない、その理由を作ったのは私なのでサッとその斜め上の赤色から目を反らした。
「…ところでその頬の赤みはどうされました?」
「ちょっと僕がしつこすぎたみたいでね、怒らせちゃったみたいなんだ、はっはっは!」
「あの、最強と謳われる五条、悟たるお方が……?はあ…、」
部屋で起こった出来事は私達しか知らない。祖母には昨晩お楽しみしていたように見えていたと思うからきっと、朝から楽しみ過ぎた悟への私の攻撃くらいに思われているだろう。多分。
でも実際は、布団の中で私を引き寄せて再び唇をすぼめて来た所を左頬に平手打ちをしたってわけで。そんなに強くはないと思うけれど色白には目立つらしく。
祖母と龍太郎の視線が悟から私に突き刺さる。
『すみません…?』
「お前は、その方をどういう方なのかよく分かって居ないようだな、その方は呪術界の、」
「まあまあまあ、結構楽しんでしつこく迫った僕が悪かったって事で!」
キレかけた祖母を宥め、私の肩を抱き寄せる。ボソリと"ボロが出ないように合わせて"と耳にし、私は少しばかり姿勢を正した。
仕方ない…っ!こればっかりは、ここまで来たらそれっぽくしないとバレた時は次は無い。私を引き寄せた悟の体に腕を回した。
祖母はまだ何か言いたそうな顔をしている所、悟は私の肩をぐいぐいと座るように急かし、私が座ろうとした所で座布団にささっと座った。
祖母にバレてない…、ホントにバレてないよね?と心臓がどきどきとうるさい。
「ところで、春日に伝わる書物とかそういったものあるでしょ?ハルカに見せて欲しいんだ。せっかく視野が広くなった所で、そういった一族についての刺激がないと呪術に目覚めるに目覚められないだろ?」
いただきます、と食べながら祖母は箸も持たずに少し考えていた。
私が汁物の椀を持ち、お吸い物を飲んでいる所で、ようやく口を開く。