第2章 視界から呪いへの鎹
地にようやく足を付けさせて貰えた。
私を抱えていた両手をじっと見ている目の前の男。
『ねえ、勘違いじゃなければ良いんだけれど揺らす時に手のひらで若干揉んでなかった?』
「…~~♪」
……確信犯だとは思うけれどこれ以上追求しても意味もなさそうだ。小さくため息を漏らす。
道路を挟んだ両側の木々の枝から見える空。夕方がより暗くなっていく。呪いが見えて、強い悟が居ても怖いものは怖い。
これ以上はここは街灯もないから屋敷へ戻らないといけないか。軽薄で性格が最低でも、こういういざという時に頼れる人が側に居るから安心できる私がいた。
「…で、だ。恋人って設定してもキミ、演技へったくそだろ?なら、せめてここの滞在中限定でマジで付き合ってみない?これなら演技なしでも良いっしょ。ほら僕、何でも出来て最強のナイスガイだから隣を歩くだけでもあー幸せってなるからさ」
『……はぁ?あんたって自分でそういうの言っちゃう人ぉ?幸せについて本気出して考えてみてる?』
「あん?後で答え合わせするかあ?少しは合ってるかもしれないぞ?」
……ナイスガイってか確かに、ムカつくけれど否定出来ないほどにルックスは良いんだけれどねぇ。それでもちょっと性格が…うん、数日絡まれ続けて分かる、その内面が非常に残念っていうか…。
そんな私の思考が表情に漏れていたらしい。
悟は眉を歪めている。
「そんなに嫌?だったら、僕はこのまま帰って、キミはあの龍太郎って子に5人くらい腹に仕込まれるかもしれないけれどそれで良い?」
両手を後頭部で組んでのんきそうに言うけれど、とんでもない発言をしている。
そんな人生はまっぴらごめん。私は自分で人生を決めたい。だから首を横に振った。
『それは嫌、人に決められた相手なんて……
ああ…うーん、その…仕方ないから悟さんとここにいる間だけ付き合う事にする……仕方ないけれど』
「そこ2回も言わなくても良くない?」
背に腹は代えられない。
すっ、と差し出された手。その手を見てから私は顔を見上げた。
「それじゃあ、期間限定だけれどよろしく、ハルカ。側にいる時は出来る限りは守ってあげる」
『……うん、こちらこそよろしく』
私はその手に手を重ねた。握手なんだろうって。
でも握った左手を、右手に変えてそのまま引かれていく。握手と思っていたのに手を繋いで行くという事だったのか。