第9章 五条求婚する
『開けてないから書いてないよ。
多分報告は2年の誰かしらから聞いてると思うけれど、呪霊に開けられた床の穴でぶら下がっていたんだよね。その時にこれがバッグから落ちたわけ。それを私は拾いに追いかけたんだ』
多くの体重を支えていた、天井に突き刺していた怒髪天が外れた事で封筒は下にと落ちていったのだけれど。追いかけた先にはお目当ての封筒とおまけの呪霊。かなり呪霊の体力を削りはしたけれど最終的には先輩がトドメを刺している。
封筒から私は悟へと視線を移すと、遅れて悟も同じ様に封筒から私へと視線を移した。
不服そうな表情してる。眉がハの字だ。
「これだけの為にわざわざ推定1級呪霊にこんなになるまでぼこぼこにされにいったワケぇ?ハルカは3級でしょ、学生証確認してるよね?婚姻届なんていくらでも書けるのにどうして無茶までして取りに行くのさ?」
畳み掛けてくるような悟の言葉。ひとつひとつが突き刺す威力が大きい。
『私の先祖達がぼこぼこにしてくれたけれど、油断した時に刺されて領域外に出てきたらこうなってんの!』
「え、嘘これで領域展開済だったの?リセットしてこれじゃあ油断したキミが悪いね~?油断大敵ってキミ言葉知ってる?教わってる?」
……これ以上墓穴を掘らない様に、手でそれは置いておいて、とジェスチャーをした。いつまでも話が前に進んでいかない。
その問題の封筒を私は手に取る。
『一通一通、ただ悪戯するためじゃなくて想いを込めて書いてるでしょ。そういう所はきっちりとしてるからさ、悟は。しっかり書いて私が悟からの求婚に折れるまで毎日渡し続けるつもりなんでしょ』
猫のシールを破らないようにそっと剥がして、中に畳まれた紙を開く。
なぐり書きではない、丁寧にしっかりと悟が記入済みの婚姻届を悟に見えるように渡した。
しっかりと想いを込めるように書かれた文字が並ぶ。変わらず私の欄は空いたまま、それは今まで貰い続けた婚姻届にも同じことが言えた。ただひたすらに渡し続ける毎日のプロポーズ。
かさ、と音を立てて片手で受け取る悟。紙面を見つめていたスカイブルーはこちらに向く。