第9章 五条求婚する
ぷふっ!と笑ったパンダは思考をそのまんま口に出した。
「吸引力の変わらない、ただひとりの春日」
『ダイソンじゃないっすよ?』
なんてやりとりをしているうちに皆の乗せた車は別荘地管理棟へと到着した。
……今日の天気は晴れ。雲が大気を流れているけれど予報じゃ雨にはならない、一日中晴れの予報。
木々は確かに多いけれど少し傷んだアスファルトもあり、その路上からまっすぐと空へと天井のある左右の街路樹のトンネル。
まだ午前中で帳さえ下ろしていないというのに、近くの古びた別荘の影や街路樹の幹の影から覗き込む人ならざる者たち。ちらちら見て物陰から沸き立っているような。
そんな歓迎を見て真希がチッ!と舌打ちをした。
「……いままでこんなのあったか?帳も降りてない真っ昼間の状態で始めっからこっちの様子覗いてんのはよ…」
運転席から降りた補助監督生が帳を下ろせば、その覗き込む暗がりを好む呪い達が一斉に行動を始めた。動きやすいんだろう、人気店舗のオープンにぞろぞろと向かう大群みたいで。
この様子には呪骸であるパンダもため息が出る。
「これ確実に呼び寄せてるだろ、モテ期だな!」
『そんなモテ期要りませんって』
「数も多いし棘、頼むぞー」
私が首を振ってパンダの発言を拒絶する中、チィィ…とファスナーを下げる狗巻。
「"捻れろ"」
こちらにやって来る者たちが一斉にねじ切れて地べたにドサッ、と倒れる。ゆっくりと消えていく呪い達はまだ弱い方。
10匹程がたった4文字の言葉で捻じ祓われてしまった。
私はファスナーを下げた狗巻の腕に服の上から手を当て、術式を使う。これで声は枯れる事無く発せる事が出来るハズだ。
「よし。棘の喉に関してはハルカが居るから良いだろ」
「しゃけ!」