第2章 視界から呪いへの鎹
7.
「この程度なら体術で十分かな」
構えて、私の前方に居た2匹を前に、まず一発殴りつけ、次に蹴り上げて消し去る。
「はい、次ー、次ー」
押し寄せる魑魅魍魎…複数の呪いを、蹴っては殴り、殴っては蹴って軽く地に伏せてしまった。
まるで流れるようにあっという間過ぎて、一切の苦戦を感じない動きだった。
「あっ…術使っちゃった」
最後に拗じられていく呪い。
くるりと振り返り、ラウンド型のサングラスの端からスカイブルーがこちらを覗き込む。
「見えるようになって良かったよ、それに荒療治だけれど、一体だけでも自力で倒せていたし。
呪術ばかりはキミにどうこう出来ないけど、キミ自身で引き出していこうね」
ぺたん。
アスファルトの上に私は座り込んでしまっていた。死ぬかも知れない程の見慣れない大量の呪いに追われて……疲れて、殴って、安全を確認して。足腰の力がストンと抜けてしまったようだった。
寒くもないのに震えた。寒い、秋から冬に変わる風に吹かれたようなあの感覚。
自身の両手を見ると小刻みに震えていた。
『……、』
「怖かったのかな?」
ジャリ、と小石を踏む音を立てながら近付いて、降ってくる頭上の声。
私は震える両手を座り込んだ脚に下ろして、近付く人物を見上げた。
『……そりゃあ、怖くないって言ったら嘘になる』
悟はその私の返事を聞いて短く笑った。
「ははっ、そりゃあそうだろうね。
で、なんでキミ僕との散歩中に逃げたの?しかも、屋敷に行った後にわざわざこっちに出てきてさー」
ジャリ、と靴底が小石をすり潰して、座り込む私の側にしゃがむ悟。その膝の上で頬杖を突いていた。
『……──実は…、』
私は、屋敷に戻った後に見た、庭の犠牲者達の墓の光景と聞いた話を話した。
そしてそれらを話して本人を前に…どうせこの距離で逃げられないのなら聞いてしまおう、と。私の中で天秤に掛けて、まだ悟の身代わりの道具にされる方がマシだった。
もちろん、自身が死ぬ事は嫌だけれど。
『──悟さんは、私を道具にするつもりなんでしょ?』
膝の上の自身の手をぎゅっと握りこぶしにして聞いた。
私の真剣な質問を聞いた、目の前のしゃがんで口に弧を描く男は笑い声をまた漏らす。