第2章 視界から呪いへの鎹
がさっ、がさがさ。
ひとり駆け抜けるこの一本道。後ろは多分、5体くらい、そして前方からも現れる色んな形の呪いというモノ。
走りながら後ろを振り返ればパッと見6体は居る。前方は3体、まだ少ない方がマシだった。
今まで見えなかった私はこういう奴らの攻撃を受けていた。回避する事も攻撃手段も知らないから。今はただ、逃げ回る事だけは出来る。出来ることが増えた分有り難い。
目の前に立ちふさがるのは私と大して背丈が変わらない呪い。ガリガリなのにお腹がボコッと出た、眼孔が3つある姿。
それに走りながら、殴りかかった。
『~~っ、仕方がない!南高のボスの直伝の拳を…ッ!喰らいなっ!』
母が昔から病院に通いがちで(おそらくは呪いのせいで)身を守る術として、父が喧嘩の仕方を教えてくれた。
幸いにも、私はボス猿の様な父の様に荒れることもなく、苛められる生徒でも無かったから、必要の無い技術だと思っていた。
真価が発揮されるのがまさか人間にではなく、呪いだなんて誰が当てられたろうか?私も拳を一発振り抜きながらびっくりしたよ。
顔面前で両拳を構え、相手の頬目掛けてもう一発打ち込む。
ボグ、と確かな手応えと生暖かさ、殴った衝撃の反動が自身の手にじんじんと来ている。
「ぐ、ブボワァ……ァ」
ドチャッ、と倒れる呪い。一度立ち止まって、やったか?やったな?と確認して、止めた足をもう一度走って進める。
人間みたいに物理が効くじゃないの、これは。
けど、今の私じゃ大量には相手が出来ない。
『はぁっ…はぁっ…、』
全力で走っても主要道路までまだまだ掛かる。
最悪、自分の髪を犠牲にする事を考えないといけない、いやそうするしかなさそうだ。自分の体力の限界にスピードが落ちていった。
目の前に森から這い出てきた呪いが、絞られていくような姿になってその場に倒れる。
『……えっ、』
倒された……、誰が?思い浮かんだ人物はひとり。
「おつかれさん、呼吸整えてそこで待ってなよ」
『悟さん!?』
急な背後からの声に、思い浮かべた人物の登場に少しだけ安心感を得た、ような気がした。