第9章 五条求婚する
「ちぇー…ノリ悪いですねー伏黒クンはー」
「お前五条先生にますます似てきてるぞ…」
ぺら、と音を立て私の机に出されたのは今の私の悩みの種。
私をシメる拘束がゆるりと力をなくしていく。
「え、マジ?」
「あの人不誠実なんで籍を入れるのはとてもじゃないが勧められない」
背後からしがみつかれる釘崎の拘束は完全に解かれ、今度は彼女がノートやらファイルに挟まったものを取り出す。
「ちょっとちょっと…先生どんだけ用意周到なのよ……
で?するわけ?先生との結婚」
釘崎が用紙が重なって置かれている所に手を乗せ、私に伺うのをふっ…と笑ってゲンドウポーズをした。
『──良いかな?釘崎君。
交際経験の無い者が約1ヶ月交際をしたとしよう、君は何も考えずに速攻籍入れるか?』
「相手と時と場合による」
『ソンナー』
腕を組み仁王立ちする釘崎は勇ましい。だけどもそれじゃあ答えになっていない。
私はポーズを決めるのを止めて机の書類をひとまとめにしながら彼女に条件を足す。
『じゃあ相手がこの1年担当の軽薄な男だとしたら?』
「あー……うん、私的にはちょっと…ううん、ノーサンキューよ!」
『えー…』
なんと言えば良いのやら。
束ねた用紙を封筒に入れる。そして普段使いのノートや空の封筒、クリアファイル。それらを机に突っ込み終えた所で私の携帯がブーブーと小刻みに震えた。呼び出しなんでしょう、家入からの。
話題も終了し、取り囲むのも解散になりつつあるなか、私の背後から数歩移動して目の前に釘崎が居るくらいで携帯画面を見れば家入からの電話。いろいろと疲れて反応速度が低下気味だ。そのまま通話モードにして耳元に当てる。
『はい、』
"ハルカ、急いで来てくれ!5人運ばれてきた。内2名重傷者、お前は腕を呪霊に噛み切られた者、そっちを最優先で頼む。私は他の怪我人を相手してる、出血が酷くてな…急ぎで!"
一方的ではあるけれど重要点を確実に伝えていた。返事を返す事なく切られた通話、携帯をしまって私は椅子から立ち上がる。
『怪我人出たって言うから急ぎで行ってくる!』
「「「いてらー」」」
廊下を走り、医務室へと真っ直ぐに向かって私はいつものように医務室へと向かっていった。